水面に投げられた石が波紋を広げるように、地方の小さな企業がその影響力を全国へと拡大していく様は、日本経済に新たな活力をもたらしています。
私が証券会社に勤めていた2008年、一人の経営者との出会いが今でも鮮明に記憶に残っています。
岩手県の小さな水産加工会社を営む50代の経営者は、当時こう語りました。
「地元の海の幸を全国の食卓に届けたい。技術も自信もある。でも資金が…」
彼の目には確かな情熱があり、商品にも品質の高さがありました。
しかし、東京の大手スーパーとの取引が始まると同時に、資金繰りの壁にぶつかったのです。
売上は増えるのに、入金は90日後。
設備投資や原料の仕入れには即座に資金が必要なのに、銀行融資は審査に時間がかかり、間に合わない。
彼が見出した解決策の一つが「ファクタリング」でした。

今、多くの地方企業が全国展開という夢に挑戦しています。
しかし、その道のりでネックとなるのが「キャッシュフロー」という血液の流れです。
本記事では、証券会社、経済記者、ベンチャーキャピタリストという三つの視点から見てきた「資金調達のリアル」を踏まえ、ファクタリングを活用した地方企業の全国展開戦略について掘り下げていきます。
売掛金を早期に現金化することで、どのように成長のスピードを加速させることができるのか。
その可能性と落とし穴を、実例を交えながら解説していきましょう。

学びのポイント

• 地方企業の全国展開には、スピードが命。その鍵を握るのがキャッシュフロー
• ファクタリングは「売掛金の早期現金化」で成長資金を確保する手法
• 適切に活用すれば、借入に頼らない新たな資金調達の選択肢となる

地方企業が全国展開を目指す際の資金調達課題

地域経済の特性と資金ニーズ

地方企業が資金調達に苦戦する背景には、構造的な課題が存在します。
地域金融機関の貸出姿勢は近年、より慎重になっており、特に創業から間もない企業や新規事業への融資には厳しい目が向けられています。
日本銀行の金融システムレポート（2023年版）によれば、地方銀行の中小企業向け融資残高は前年比2.3%減少しており、この傾向は拡大局面にある企業にとって逆風となっています。

また、ベンチャーキャピタルの投資も東京・大阪・名古屋といった大都市圏に集中しており、地方企業へのリスクマネーは限定的です。
地方創生が叫ばれる中でも、2022年の地方企業向けVC投資は全体の15%程度に留まっているのが現状です。

さらに、全国展開に挑む地方企業特有の資金ニーズとして以下が挙げられます。

• 物流コストの増大（地方から全国への配送費）
• 営業人員の確保・教育費用
• 生産能力拡大のための設備投資
• 取引先の信用調査コスト
• ブランディング・マーケティング費用

従来の資金調達方法と比較すると、銀行融資は審査に1〜3ヶ月を要し、担保・保証人の要求も厳しいケースが多いです。
VC投資は経営権の一部譲渡を意味するため、創業者の想いを守りながら成長したい経営者にとっては選択しづらい手段となります。
補助金・助成金は申請から入金まで半年以上かかることも珍しくなく、急速な成長フェーズには対応しきれません。

こうした状況において、ファクタリングは「すでに確定している売上の前倒し資金化」という特性から、成長スピードを維持するための新たな選択肢として注目されているのです。

資金調達の「血液循環」：キャッシュフローの重要性

企業経営において、キャッシュフローは人体の血液循環に例えられます。
どれほど優れた商品やサービスがあっても、現金の流れが滞れば企業活動は停止してしまうのです。
特に、地方から全国展開を目指す成長フェーズにある企業にとって、このキャッシュフロー管理は生命線となります。

「売上が伸びているのに資金繰りが苦しい」というパラドックスは、実は成長企業に特有の現象です。
売上の増加に伴い仕入れや人件費などの先行投資が増える一方、入金サイクルが長ければ長いほどキャッシュの不足が深刻化します。
全国チェーンの小売店などでは90日〜120日の入金サイクルも珍しくなく、この資金ショートが成長の天井となるケースが少なくありません。

統計的にも、中小企業庁の調査によれば「黒字倒産」の主因の約7割がキャッシュフロー不足によるものとされています。
つまり、利益を出していても現金が回ってこなければ、企業は存続できないのです。

ファクタリングによるキャッシュの早期確保は、この「時間のギャップ」を埋める役割を果たします。
例えば、90日後に回収予定の売掛金100万円を、ファクタリング会社に95万円で買い取ってもらえれば、差額の5万円を手数料として支払う代わりに、すぐに95万円の現金を確保できます。
この現金をすぐに次の仕入れや広告宣伝に投じることで、さらなる売上拡大のサイクルを加速させることが可能になるのです。

「キャッシュフローが改善されたことで、当社の意思決定スピードは3倍になった」（愛媛県の食品メーカー経営者）

ファクタリングを適切に活用することで得られる最大のメリットは、この「決断と実行のスピードアップ」にあると言えるでしょう。

学びのポイント

• 売上増加期こそキャッシュフロー不足に陥りやすい
• 「黒字倒産」の主因の約7割がキャッシュフロー不足
• ファクタリングは「売掛金の回収時期」と「資金ニーズの発生時期」のズレを解消する手段

ファクタリング活用術：事例から学ぶ具体的アプローチ

ファクタリングを活用して飛躍した地方企業の成功談

福井県の老舗調味料メーカー「福井味匠（みしょう）」の事例は、ファクタリングの効果的な活用法を示す好例です。
創業80年の同社は地元の伝統的な製法で作る「越前塩麹」を主力商品としていましたが、経営を引き継いだ3代目の山本社長は全国展開への可能性を感じていました。

「祖父の代から受け継いだ製法は当社の『虎の子』です。
でも、その価値を知ってもらうには福井の外に出ていかなければならない」
そう語る山本社長は、2019年に東京で開催された食品展示会で大手百貨店のバイヤーの目に留まり、全国展開の足がかりを得ます。

しかし、喜びもつかの間、現実的な問題に直面します。
大手百貨店との取引は3ヶ月サイトの掛け取引。
さらに全国展開に向けた設備増強や人材確保も必要でした。

「最初は銀行融資を検討しましたが、審査に時間がかかると言われました。
チャンスをつかむには、もっと迅速な資金調達が必要だったのです」

そこで山本社長が選んだのがファクタリングでした。
首都圏での売上が確定した時点で、その売掛金をファクタリング会社に譲渡。
即日で資金を確保し、生産設備の増強と東京事務所の開設資金に充てたのです。

結果として「福井味匠」は、地方の小さな調味料メーカーから、全国の高級百貨店で取り扱われるブランドへと成長。
現在の年商は3年前の2.5倍にまで拡大しています。

「資金繰りの改善は、単なる財務上の問題解決ではありませんでした。
私たちの意思決定の速度とマインドセットを変えたのです。
チャンスを見つけたら即座に動ける組織になりました」

山本社長によれば、ファクタリングの活用で得られた最大の効果は、以下の3点だったといいます。

1. 取引先の信用リスク低減

• 新規取引先の売掛金が回収不能になるリスクをファクタリング会社が負担
• 売掛金の保証機能により新規取引先の開拓が積極的に

2. 設備投資の迅速化

• 3ヶ月後に回収予定の資金を前倒しで確保
• 生産能力拡大のタイミングを逃さず、売上増に対応

3. 経営判断の加速

• 資金的な懸念なく新市場への展開を決断
• マーケティング投資の強化で認知度向上

このように、ファクタリングは単なる「資金調達手段」を超えて、企業の成長戦略そのものに組み込まれていったのです。

ファクタリングサービス選択のポイント

ファクタリングサービスを選ぶ際は、以下の観点から比較検討することが重要です。

信頼性と手数料率

ファクタリング会社の信頼性は最も重視すべき要素です。
金融庁の登録を受けている貸金業者や、銀行グループ系列のファクタリング会社は信頼性が高い傾向にあります。
一方で、インターネット上の広告のみで実態が不明確な業者には注意が必要です。

手数料率は一般的に以下の要素で変動します。

要素	低い手数料率	高い手数料率
取引先の信用力	上場企業・大企業	中小企業・個人事業主
取引実績	長期継続的	初回利用・不定期
売掛金額	高額（1000万円以上）	少額（100万円未満）
支払期日	30日以内	90日以上先

業界平均では、売掛金額の1.5%〜10%程度が手数料の相場となっています。
ただし、最低手数料が設定されているケースが多く、少額の売掛金では割高になる傾向があります。

審査期間・契約条件

審査の速さと契約条件は事業のスピードに直結します。
大手のファクタリング会社では以下の傾向があります。

• 大手金融機関系：審査1〜2週間、契約書類が多い、低手数料
• 専業ファクター：審査1〜5日、必要書類はやや少なめ、中程度の手数料
• WEBサービス系：審査数時間〜3日、オンライン完結型、やや高め手数料

急ぎの資金需要がある場合は審査の速さを、継続的な利用を検討する場合は手数料率を重視するなど、状況に応じた選択が必要です。

非公開型と公開型の違い

ファクタリングには「非公開型（2社間ファクタリング）」と「公開型（3社間ファクタリング）」の2種類があります。

• 非公開型：売掛先に知られずに利用可能だが、手数料は高め
• 公開型：売掛先の承諾が必要だが、手数料は低め

取引先との関係性や自社のポジションを考慮し、適切な方式を選択することが重要です。
特に、新規取引先への印象を考慮する場合や、取引先の承諾を得ることが難しい場合は非公開型が適しています。

導入の流れと注意点

ファクタリングの導入プロセスは、一般的に以下の流れで進みます。

1. 事前相談・見積り依頼
2. 必要書類の提出
3. 審査（企業の基本情報、売掛先の信用力確認）
4. 契約締結
5. 売掛債権の譲渡
6. 資金受け取り

必要書類は基本的に以下のとおりです。

• 企業の登記簿謄本
• 決算書（直近2〜3期分）
• 売掛先との契約書・発注書
• 請求書のコピー
• 通帳のコピー

継続利用時の注意点としては、以下の3点が重要です。

1. コスト管理の徹底

• 手数料の総額を常に把握する（年間での総コスト）
• 売上に対する手数料率の割合を定期的に確認

2. 依存度の監視

• ファクタリングへの過度な依存に注意
• 自社のキャッシュフロー改善策と並行して利用

3. 契約更新時の見直し

• 取引実績の蓄積による手数料交渉
• 複数社からの相見積もりを定期的に取得

経理・財務担当者との連携においては、ファクタリングの会計処理や税務上の取り扱いについて正確な理解が必要です。
特に、売掛債権の譲渡登記や消費税の扱いについては、事前に税理士などの専門家に確認することをお勧めします。

「ファクタリングを始める前に社内の経理フローを整備したことで、資金管理の精度が飛躍的に向上した」（大分県の製造業経営者）

さらに、取締役会や役員会での報告・承認フローを確立し、財務戦略の一環として位置づけることで、より効果的な活用が可能になります。

全国展開を加速させるファクタリング戦略

成長企業視点から見る「ファクタリング×経営戦略」

成長フェーズにある企業にとって、ファクタリングは単なる資金調達手段を超えた戦略的ツールとなります。
特にM&Aや新規事業投資との組み合わせで、その効果は最大化します。

M&A戦略との連携

全国展開を加速するための選択肢として、地域の同業他社やチャネルを持つ企業とのM&Aは有効な手段です。
しかしM&Aには迅速な資金調達が不可欠であり、ここでファクタリングが役立ちます。

従来の方法	ファクタリング活用
銀行融資の審査に1〜3ヶ月	既存の売掛金を活用して即日〜1週間で資金確保
株式発行で株主構成変更のリスク	株主構成に影響なく資金調達が可能
担保設定で長期的な制約	売掛金のみを活用するため他の資産に制約なし

静岡県の建材メーカーは、九州地域への展開のため地元ディストリビューターの買収資金の一部にファクタリングを活用し、競合他社に先駆けて展開エリアの拡大に成功しました。

「売掛金の一部をファクタリングすることで、M&A資金の約30%を調達しました。
スピード感をもって意思決定できたことが成功の鍵でした」（同社CFO）

新規事業投資とのバランス

新規事業への投資は、将来の成長に不可欠ですが、既存事業のキャッシュフローを圧迫するリスクがあります。
ファクタリングを活用することで、この課題を解決できます。

従来の方法では、既存事業の利益蓄積を待ってから新規事業に投資するという時間的制約がありました。
一方、ファクタリングを活用すれば、既存事業の将来キャッシュを前倒しで獲得し、新規事業へ即時投資することが可能です。

例えば、長野県のアウトドア用品メーカーは、ECサイト構築のための初期投資資金をファクタリングで調達しました。
「実店舗ビジネスの売掛金をファクタリングして得た資金で、オンラインストアの構築が予定より6ヶ月早く完了しました。
結果として、全国からの注文獲得に成功し、売上は前年比140%に成長しています」

外部投資家への信頼アピール効果

ファクタリングの適切な活用は、将来的なVC投資や銀行融資の獲得にもプラスの影響をもたらします。
外部投資家は、以下の点でファクタリングを活用する企業を評価する傾向があります。

• キャッシュフロー管理の意識の高さ
• 財務戦略の多様性と柔軟性
• 成長機会を逃さない積極的な姿勢

「ファクタリングの導入は、財務管理の成熟度を示すシグナルとなり得ます。
特に、定期的な活用から自社のキャッシュフロー改善へとステップアップしている企業は、資金調達力も成長しています」（VC投資家）

ストーリーテリングで見る経営者の意思決定

全国展開という「危機と好機」が同居する局面で、経営者はどのような思考プロセスでファクタリングを選択するのでしょうか。
私がこれまで取材してきた経営者のリアルな声から、その意思決定の背景を紐解いていきます。

広島県の自動車部品メーカーの経営者は、大手自動車メーカーとの取引獲得という千載一遇のチャンスを前に、設備投資と人材確保という難題に直面していました。

「新規取引は嬉しいものの、支払いサイトは120日。
一方で設備投資や人材確保は今すぐに始めなければなりません。
銀行融資も検討しましたが、融資実行まで2ヶ月以上かかるとの回答でした」

この状況で同社が選んだのは、受注確定済みの売掛金をファクタリングで早期資金化するという「一石二鳥」の施策でした。

「ファクタリングにより、大手自動車メーカーからの入金を待つことなく設備投資が可能になりました。
また、取引信用保険の役割も果たしてくれるため、新規取引先のリスクヘッジにもなりました」

この意思決定プロセスに見られるのは、以下の思考パターンです。

1. 危機と好機の同時認識

• 大口取引という好機
• 資金ショートという危機

2. 複数の選択肢検討

• 銀行融資
• 投資家からの資金調達
• ファクタリング
• 取引条件の交渉

3. 最適解の選択基準

• スピード（実行までの時間）
• コントロール（経営権への影響）
• 将来性（継続的に利用可能か）
• 総コスト（金利・手数料の負担）

銀行やVCが評価する「資金調達ストーリー」には一貫性と戦略性が求められます。
「単に資金が足りないからファクタリングを使う」のではなく、「成長機会を最大化するための戦略的選択としてファクタリングを活用する」という姿勢が重要です。

「私たちが融資判断の際に重視するのは、資金使途の明確さと返済計画の実現可能性です。
ファクタリングを成長戦略に組み込んで計画的に活用している企業は、資金繰り管理の意識が高く、融資判断にもプラスに働きます」（地方銀行融資担当者）

地方企業が抱える成長阻害要因への対処

地方から全国展開を目指す企業には、資金面以外にも様々な成長阻害要因が存在します。
ファクタリングは、意外なことにこれらの課題解決にも貢献します。

人材確保とファクタリングの関係

地方企業の全国展開において、優秀な人材確保は資金調達と並ぶ重要課題です。
特に都市部での営業人材や専門職の採用には、魅力的な給与水準と安定した雇用環境が必要です。

ファクタリングの活用で即時に資金を確保できれば、採用活動の強化や研修制度の充実など、人材戦略への投資が可能になります。
さらに、給与の安定支払いを確保することで、「地方企業は給与支払いが遅れるリスクがある」という懸念を払拭できます。

福岡県のITサービス企業は、東京進出時に直面した採用難をファクタリングで乗り越えました。
「東京での採用活動とオフィス設立資金として、既存顧客の売掛金をファクタリングしました。
結果的に計画より3ヶ月早く東京拠点を立ち上げ、5名の優秀な開発者を採用できました」

取引先との交渉力強化

キャッシュフローに余裕がある企業は、取引条件の交渉においても優位に立てます。
例えば、仕入先に対する早期支払いによる値引き交渉や、新規取引先への提案力強化などが可能になります。

「当社は原材料の一括仕入れによるコスト削減を実現するため、ファクタリングを活用しました。
売掛金を早期に現金化し、仕入れ資金に充てることで、原材料コストを約8%削減できました」（群馬県の製造業経営者）

補助金・助成金との組み合わせ

地方創生や中小企業支援に関連する補助金・助成金も、ファクタリングと組み合わせることで効果的に活用できます。
補助金は基本的に後払い（精算払い）のため、事業実施には先行資金が必要です。
この先行資金をファクタリングで確保することで、補助金申請のハードルを下げることができます。

徳島県の食品加工企業は、農林水産省の「6次産業化支援事業」の活用とファクタリングを組み合わせ、加工場の拡張に成功しました。
「補助金が実際に入金されるまでの資金をファクタリングで調達することで、工期の遅延なく事業を進められました」

以上のように、ファクタリングは単なる資金調達手段を超えて、地方企業の成長戦略全体をサポートする役割を果たすことができるのです。

リスクと落とし穴：ファクタリング導入時の注意点

手数料負担とキャッシュフローのバランス

ファクタリングは即時の資金確保に有効ですが、手数料負担とのバランスを常に意識する必要があります。
特に成長スピードとコスト負担の最適化は、継続的な利用において重要なポイントです。

成長速度に応じた利用頻度の調整

ファクタリングの利用頻度は、企業の成長フェーズによって調整すべきです。
以下のような段階的アプローチが効果的です。

1. 初期段階（急成長期）

• 積極的にファクタリングを活用
• 成長機会を逃さないことを優先
• 手数料負担よりも機会損失回避を重視

2. 中期段階（安定成長期）

• 季節変動やプロジェクト単位での選択的利用
• 自社のキャッシュフロー改善策と併用
• コスト対効果を定期的に検証

3. 成熟段階（安定期）

• 特殊案件や一時的な資金需要時のみ活用
• 自社のキャッシュフロー管理を主軸に置く
• 緊急時のバックアップとしての関係維持

「当初は売掛金の約70%をファクタリングしていましたが、徐々に比率を下げ、現在は特に大型案件や季節的な繁忙期のみ活用しています。
結果として年間のファクタリングコストを前年比で40%削減できました」（岡山県の印刷会社経営者）

「安さ」だけを重視した失敗例

手数料率だけを基準にファクタリング会社を選ぶことは、思わぬリスクを招く可能性があります。
以下は実際の失敗事例から学ぶべきポイントです。

• 契約書の細部確認不足による追加手数料の発生
• 審査の遅延による資金化タイミングの遅れ
• 売掛先への通知方法の不備によるトラブル
• 契約解除条件の不明確さによる長期的な負担

福岡県の通信機器販売会社は、手数料の安さを重視してファクタリング会社を選んだものの、最低手数料の設定や早期資金化のための追加手数料が発生し、結果的に割高になった経験を持ちます。

「表面上の手数料率だけでなく、総コストを試算することが重要です。
また、スピードや手続きの簡便さなども含めた総合評価で選ぶべきでした」（同社財務担当）

企業価値評価や信用力への影響

ファクタリングの利用は、企業の財務状況や対外的な信用力にも影響を与える可能性があります。
特に将来的な資金調達や取引拡大を考える企業は、以下の点に注意が必要です。

ファクタリングと負債の違いを理解する

ファクタリングは会計上「売掛債権の譲渡」となり、基本的には負債ではありません。
しかし、財務分析において以下のような影響があります。

観点	影響
バランスシート	売掛金の減少、現金の増加（負債は増加しない）
キャッシュフロー計算書	営業CF改善（投資CF・財務CFには影響なし）
財務指標	流動比率の向上、資産回転率の向上

「ファクタリングは適切に利用すれば、むしろ財務指標の改善につながります。
特に、回収期間の長い大口取引の売掛金をファクタリングすることで、資産効率が向上します」（税理士）

取引先・投資家とのコミュニケーション

ファクタリングの利用について、取引先や投資家にどう説明するかも重要なポイントです。
特に公開型（3社間）ファクタリングを利用する場合は、取引先に対して以下のような説明が効果的です。

• 成長投資のための戦略的な資金調達手段であること
• 取引先との長期的関係を重視していること
• 支払条件の変更を求めるものではないこと

投資家に対しては、以下のポイントを強調することで理解を得やすくなります。

• 成長機会を最大化するための一時的な施策であること
• キャッシュコンバージョンサイクルの改善につながること
• 財務の柔軟性を高める手段として活用していること

「当社がIPOを目指す過程で、成長資金確保のためにファクタリングを利用していることを投資家に説明しました。
成長スピードの確保という目的を明確に伝えることで、むしろ積極的な財務戦略として評価されました」（愛知県のテック企業CEO）

不要な契約トラブルを避けるために

ファクタリングに関するトラブルの多くは、契約内容の理解不足から生じています。
以下のポイントに注意することで、不要なトラブルを回避できます。

不透明な契約条件を見極める視点

契約書を確認する際は、特に以下の項目に注意してください。

1. 手数料の計算方法

• 基本手数料以外の追加費用の有無
• 早期資金化のための割増手数料
• 最低手数料の設定

2. 契約の解除条件

• 中途解約時のペナルティ
• 最低利用期間の設定
• 自動更新条項の有無

3. 債権の遡及条項

• 売掛先が支払わなかった場合の返還義務
• 返還請求の条件と期間
• 保証限度額の設定

特に、契約書に「遡及」「償還請求権」「返還義務」などの言葉がある場合は、売掛先が支払わない場合のリスクが自社に残る可能性があります。
この点は事前に明確にしておくことが重要です。

外部専門家との連携やセカンドオピニオン

ファクタリング契約を締結する前に、以下の専門家に相談することをお勧めします。

• 税理士：会計処理や税務上の取り扱いについて
• 弁護士：契約条件の法的リスク評価
• 金融アドバイザー：総合的な資金調達戦略の観点から

「当社は初めてファクタリングを利用する際、税理士と顧問弁護士の両方にレビューを依頼しました。
その結果、契約書の一部条項の修正を求め、より有利な条件で契約を締結できました」（石川県の卸売業経営者）

また、複数のファクタリング会社から見積もりを取り、比較検討することも有効です。
特に、以下の観点での比較が重要です。

• 総コスト（手数料率だけでなく、諸経費も含めた実質コスト）
• 資金化までのスピード（申込から入金までの日数）
• 契約書の明瞭さと平易さ（複雑な条件設定がないか）
• 担当者の専門知識と対応の質（質問への回答の的確さ）

これらの点に注意することで、ファクタリングを成長のための有効なツールとして最大限に活用することができるでしょう。

まとめ

地方企業が全国展開を実現するための最大の鍵は、成長のスピードとタイミングです。
その成長スピードを左右するのが「キャッシュフロー」という企業の血流であり、これを適切に確保するための一つの選択肢として「ファクタリング」があります。

本記事で見てきたように、ファクタリングは単なる「資金繰り改善」の手段を超えて、成長戦略に組み込むことで最大の効果を発揮します。
特に、以下のポイントを押さえることが重要です。

• 成長フェーズに応じた活用法の選択（全面活用→選択的活用→緊急時のバックアップ）
• 手数料コストと成長機会のバランスを常に意識する
• 契約内容の詳細確認と専門家の助言を活用する
• ファクタリングを含めた総合的な財務戦略の構築

「キャッシュは酸素のようなもの。普段は意識しないが、不足すると即座に致命的になる」
これは私がVC時代によく使っていた表現ですが、特に全国展開という大きなジャンプを目指す地方企業にとって、この「酸素」を確保する手段の一つとしてファクタリングは有効です。

私自身、金融機関、経済記者、VC投資家という三つの立場で多くの成長企業を見てきましたが、成功企業に共通するのは「資金調達の多様性」です。
銀行融資だけ、VC資金だけ、自己資金だけ、という単一の資金源に依存せず、状況に応じて最適な資金調達手段を選択できる企業が、持続的な成長を実現しています。

ファクタリングもその選択肢の一つとして、皆さんの成長戦略に組み込んでみてはいかがでしょうか。
適切に活用すれば、地方から全国へ、そして全国から世界へと羽ばたくための強力な推進力となるはずです。

最終的な行動指針

1. 自社のキャッシュフローサイクルを可視化する
2. 売掛金の回収期間と資金需要のタイミングを分析する
3. 複数のファクタリング会社から見積もりを取得し比較する
4. 成長戦略の中での位置づけを明確にした上で導入を検討する
5. 専門家（税理士・弁護士）のアドバイスを受ける
6. 定期的に効果測定し、活用方法を最適化していく

地方企業の躍進は、日本経済の新たな活力となります。
皆さんの挑戦が、次の成功事例となることを心より願っています。